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No.007 ライター 中沢純:作品レビュー 横山健 -疾風勁草編- ドキュメンタリーフィルム

作品レビュー:No.007 ライター 中沢純

現在地へと辿り着くまでの濃密な半生には、疾風勁草という四文字熟語が相応しい。 by No.007 ライター 中沢純

横山健はカッコいい。なぜかと言うと常に本音でぶつかってくるからだ。今までにリリースした多くの作品では、身近なことから政治的なことまで、考えをストレートにメッセージとして表明し、キャッチーなサウンドに乗せたパンクロックをおみまいしてくれる。ライヴに行くと観客との距離感が異常に近く、下ネタ(特におちんちんにまつわるエトセトラ)が大好きで、ユーモアの重要性を嫌というほど分かっている。それでいてキメるところはバッチリとキメる。理想のカッコいい男の法則にバッチリと当てはまる存在だ。そんな彼のドキュメンタリーフィルム『横山健 -疾風勁草編-』がDVD化とのことで、より多くの人に見る機会が訪れることが純粋に嬉しい。それは、この作品が格別に面白く、非常に興味深い内容だったからだ。

本人の嘘偽りのない言葉と、ライヴやプライベート映像、貴重な写真で構成されたこの作品には、激動の半生が描かれている。出生から活発だった幼少期、複雑だった家庭環境、ギターを手に入れ、バンドの楽しさを知った高校時代。そしてハイ・スタンダード(以下、ハイスタ)の結成。時代に選ばれた彼らは圧倒的な速度でパンクシーンの寵児へと持ち上げられた。当時、キッズだった自分も心を奪われた一人であり、正真正銘、僕らのヒーローだった。しかしあまりにも大きな存在になり過ぎて、横山本人たちの意志ではコントロールできなくなってしまう。売れてしまうと拒否反応が出てしまうのは、真性パンクスの宿命。精神バランスを崩し、現実とギャップの折り合いをうまくつけることができなかったのだ。僕たちの目にはあまりにも眩く輝いていたとき、バンド自体はボロボロの状態であったと知る。華々しく見えるものの実情とは、実は波乱に満ちているものなのかもしれない。

その後バンドを休止し、ソロ活動をスタート。自身のパーソナルと向き合っていく中で、徐々に手応えをモノにしていく。約10年という月日はアーティストとしての力量を格段に高めていった。そんな中、予想だにしなかった未曾有の大震災が起こってしまう。以降、一人の人間として、アーティストとして、自身のやれることを模索し、これと決めたことへ邁進していく。それがAIR JAMの復活、ハイスタの再始動だった。その報に我々外野は「ウオー!!!」と単純に心が躍ったものだが、本人の中では葛藤があったようで、2011年のAIR JAM後の複雑な心境を吐露している場面は興味深い。翌年には宿願であった東北でのAIR JAMを開催。ライヴ後の表情が非常に晴れやかで印象的だ。それは活動休止以降、初めてハイスタを受け入れた瞬間だったのかもしれない。ハイスタという偉大な屋号は、ずっとついて回るもの。だが、横山健はもう先へと進んでいる。震災を経て、日常を過ごしていく中で気付いた自身の役割。たくさんの人の思いを背負って前へと進む決意。その証として、映像の最後に背中に彫ったあるものが明かされる。それは観てのお楽しみ。

人それぞれにドラマがある、というのは重々承知だけど、ドキュメンタリーになる人間なんてそうそうはいない。KEN BANDという素敵なメンバーや信頼できるレーベルスタッフに囲まれ、2児の子供たちへ無償の愛を注ぎ、自分の言葉に責任を持ってパンクロックを歌う。現在地へと辿り着くまでの濃密な半生には、疾風勁草という四文字熟語が相応しい。この作品を観た後、みんなきっと思うことだろう。「横山健って、やっぱりカッコいい!」。

by ライター 中沢純