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No.004 有島博志/GrindHouse:作品レビュー 横山健 -疾風勁草編- ドキュメンタリーフィルム

作品レビュー:No.004 有島博志/GrindHouse

あの日から楽勝で20年の歳月が流れてる。が、しかし、今作を観て痛感させられた。
自分は横山のことをなにも知らないんだ、と。
Hi-STANSARD、BBQ CHICKENS、KEN YOKOYAMAの全音源を聴き、
ライヴも観、何度か取材もしてるにもかかわらず、だ。 by No.004 有島博志/GrindHouse

ここ数年、ロック界において洋邦問わずにドキュメンタリー映画花盛りだ。みなこぞって製作し、劇場で公開したり、DVD & Blu-ray Discで発売したりの様相を呈し、ときに映画館、CDショップ店頭が賑わいを見せる。

ドキュメンタリーを堅っ苦しく言うと、映画フィルム、ビデオなどの映像記録媒体で撮影した記録映像作品のことだ。文学におけるノンフィクションと同じで、取材対象をありのままに記録した素材映像を編集しまとめた映像作品とされる。ひと昔前、ロック界でのドキュメンタリーと言えば、ツアーダイアリーのような映像がもっぱら、相場だった。だけど近頃はどんどん上記の定義に近い作風に。当該アーティストたちの普段なかなか拝めない“素顔”に迫り、“生の姿”も捕らえ、見せる傾向が強くなってきてる。よって、なかには一歩も二歩も踏み込み、一線も越えてると思える映像も少なくなく、見方によっては“プライベートの切り売り”とも捉えられなくもない“ギリギリの危険性”もはらんだ性格の作品だ。

でだ、横山健の、この『疾風勁草編』だ。横山が今作の冒頭から“格言的断言”を言い放ってるんで、それに倣おう。相当面白く、楽しめるドキュメンタリーだ、と断言できる。昨年、一般公開される前に都内某所での劇場試写を観たのだけど、楽しさ、面白さ、そして核心に迫り、心に触れる発言や映像の数々などは思い描いてた以上で、観てる最中完全に持っていかれ、2時間弱ガッツリと観入ってしまったほどだ。横山生誕からごくごく最近までの40数年を駆け足で追っかけてる。今作で初公開となる貴重な写真や映像も数多登場する。そして表現者、下ネタ大好きなオヤジ、二児のよきパパ、主張者、ソングライター、ギタリスト、♂ストリッパー、精神的指導者、KEN BAND最高責任者、パフォーマー、リリシスト、脱原発支持者、Pizza Of Death Records代表取締役、Hi-STANDARD構成員、メタル大好きパンクロッカー、BBQ CHICKENS一員、(たまに)プロデューサー、被災地支援者、バンT好き、独りの男、いち人間としての横山が“素の表情”と“普段の姿”のまんまで縦横無尽に描かれてて、相当な情報量だ。KEN BANDのHidenori Minami(g)、Jun Gray(b)、松浦英治(ds)、SLANGのKO(vo)、Hi-Standardの難波章浩(vo,b)、恒岡章(ds)が何度も顔を出すけど、あくまでもフォーカスされるのは横山だ。

横山に初めて会ったのは、確かHi-STANDARDが『LAST OF SUNNY DAY』(94年)でデビューする直前のことだったと記憶する。今は亡き下北沢のカフェ(てか喫茶店?)で行った対面取材の現場だった。自分は取材者じゃなく、ただの立会人だった。そのとき横山はスラッシュメタルバンド、TESTAMENTのバンTを着てた。それがとても印象的で、今もなお克明に憶えてる。あの日から楽勝で20年の歳月が流れてる。が、しかし、今作を観て痛感させられた。自分は横山のことをなにも知らないんだ、と。Hi-STANDARD、BBQ CHICKENS、KEN YOKOYAMAの全音源を聴き、ライヴも観、何度か取材もしてるにもかかわらず、だ。今作から知り、学んだことは非常に多い。特にその人となり、こだわり、考え方などは実に興味深く、共鳴するところもある。

それにしてもだ、横山はヘビースモーカーだ。世のなかの流れ的には今後どんどん肩身が狭くなるだろう(自分も人のこと言えないけど)。また、映像に女性が出てくる頻度が異様なまでに低く男臭すぎる。そして横山の発言や、ちょっとした映像から今後起こり得ること、反対に絶対に起こらないことが示唆されてる、と思えるフシすらある。そして決定打は、なんと言っても後半出てくる母親が語る(顔出しナシ)横山の息子 & 人間像だ。めちゃ説得力がある。少し前に発行されたコラム集『随感随筆編』も併せて読むことをお勧めしたい。

付属CDで聴ける新曲1曲“Stop The World”も心に沁みる響きを放つ佳曲だ。

by 有島博志/GrindHouse