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今作の制作にあたって、当時まだPIZZA OF DEATHのスタッフだった自分と監督MINORxUの間ではそんなに大げさな話はしてなかった気がする。着地点なんて全く見えてなかった。MINORxUからの要望は「単館でもいいから劇場公開したい」という一点のみだった。他でも散々語られていることだけど、あの時はまさかこんなことになるとは思ってなかった。東日本大震災が起こるなんて、ハイスタが復活するなんて。
このプロジェクトは、途中まで自分が担当していた。個人的に思うことがあってPIZZAを辞めたのが震災の約ひと月半前のこと。「これからどうすればいいんすか…?」退社することをMINORxUに伝えたとき、彼の顔を見るのが辛かった。だからというわけじゃないけど、その後、日本がひっくり返って、パンクシーンがひっくり返って、自分もひっくり返りながらも、この作品のことは薄っすらと気になっていた。
最初はよくある形のドキュメンタリーのつもりだったんだ。たしか、2011年夏の上映を目指してたんじゃなかったかな。当時、上映の当たりをつけていた劇場にも挨拶に行っていた。PIZZAを離れてから本人と直接話はしなかったけど、震災以降、MINORxUも相当悩んだと思う。どういう方向にこの作品を持っていけばいいのか。
正直、今作は焦点が絞りきれておらず、若干散漫になっている印象は否めない。でも、あんな誰もが予想し得ない異常事態をテープに収めながら、よくぞここまでまとめ上げた。長い間密着したが故に生まれた混乱ではあるけど、だからこそこの形にまでこぎ着くことができたんだと思う。
では、せっかくだし、ここで個人的な裏話をしてもいいかな?作品の序盤、いい年した大人が雪合戦に興じているシーンがある。これは2010年1月24日、ZEPP札幌でのライヴ後の一コマだ。横山健にしがみつき、執拗に攻撃を加えているダウンジャケットの男が自分。この時、PIZZAを辞めることを人知れず決意していた。いつ辞めるかまでは決めていなかったけど、「もう、この人と地方で馬鹿みたいにはしゃぐことはないんだ…」と思ったら、襲いかからずにはいられなかった。ご覧のとおり、あの人は散々嫌がってたし、「こいつ、やけにしつこいな…」とも思っただろう。だけど、あれは自分なりの、精一杯の愛情表現のつもりだった。だから、あのほんの数十秒のシーンを見るたび、ひとりでエモくなってしまう。
今作の主役はもちろん横山健だ。しかし、彼に関わる多くの人々の物語でもある。そう言わしめるだけの言葉が、笑顔が、眼差しが、今作の登場人物から彼へと注がれている。大いなる愛と共に。
by 阿刀大志