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No.028 有泉智子 (MUSICA編集長):作品レビュー 横山健 -疾風勁草編- ドキュメンタリーフィルム

作品レビュー:No.028 有泉智子 (MUSICA編集長)

「The Cost Of My Freedom」というタイトルおよび上記に歌詞と和訳を抜粋した同名の楽曲に、横山健というパンクロッカーの決意と覚悟と、そして何よりも、今に続く彼の誠実なアーティスト性が雄弁に表れていると思う。 by No.028 有泉智子 (MUSICA編集長)

「The Cost Of My Freedom」ーーご存知の通り、この言葉は2004年に横山健が自身のソロ・ファーストアルバムにつけたタイトルだ。Hi-STANDARD活動休止後、パンクロッカーとして新たな道を歩き始めるその第一声として、彼は「The Cost Of My Freedom」つまり「自由のために払った犠牲」という言葉を掲げた。私は今でもこのアルバムが本当に大好きなのだけど、当時このタイトルを見た時はかなり驚いたし衝撃を受けた。90年代後期に時代を揺さぶるだけのムーヴメントを生み出し、しかもDIYでアルバム100万枚を売るという、パンク/インディーズ・バンドのみならず全国各地の少年少女の夢を体現してしまったビッグバンドのメンバーが、そのソロの始まりとして掲げる言葉としてはあまりにも生々しいしあまりにも重い言葉だったからだ。それも、和訳としては「自由の対価」とか「自由の代償」という言葉も使えただろうに、当てられたのは「自由のために払った犠牲」という言葉。

I was alone / Though I walked the streets with people all around / And my search truly began / Start again
It’s the cost of my freedom / Pay the price of loneliness
ーーオレは孤独だった / いくら人々の熱気にあふれた街にいようと / それからオレの真実を探す旅は始まった / 再出発だよ
ーー自由のために払った犠牲 / 孤独という代償を支払ったんだ  <“The Cost Of My Freedom”より歌詞と和訳>

あの前後から様々なインタビューで彼の心情は吐露されていたけれど、この「The Cost Of My Freedom」というタイトルおよび上記に歌詞と和訳を抜粋した同名の楽曲に、横山健というパンクロッカーの決意と覚悟と、そして何よりも、今に続く彼の誠実なアーティスト性が雄弁に表れていると思う。だからこそ、映画の冒頭で流れる、横浜スタジアムでのAIR JAM 2011終演後のバックヤードでカメラが捉えた横山の赤裸々な言葉は、観ている自分の心までも押し潰されそうなほど苦しかったし重かった。

この映画は、ドキュメント映画というよりもインタビュー映画と言ったほうが適切かもしれない。映画のほぼすべては基本的に横山の独白で展開し、そこでは生い立ちからHi-STANDARDからソロのキャリアから、ひとりの人間・横山健としての考え方までが語られていく。映画としてはかなり異色だし、エンターテイメント性の薄いストイックな作品だと思う。でも、時にシリアスなことを語っている場面で流れる少々おバカでユーモアのある映像とのギャップも含めて、これほど横山健というアーティストの姿を偽りも誇張もなくただ真っ直ぐに浮かび上がらせるものは他にはない。

2011年の夏辺りから横山が掲げるようになった「We Are Fuckin’ One」というスローガン。横山は震災をきっかけに考え方が大きく変わったと言うし、実際この映画も震災以前と以降ではトーンが変わる。事実、考え方は変わったのだろう。だけど、物事に「たら・れば」はないなんてことは百も承知の上で、それでも私はこの映画を観ながら思った。時期は違ったかもしれないけれど、彼はきっと、震災がなくとも同じ道を歩み同じメッセージを放っていたのではないか、と。様々なことを真っ向から見つめ感じ、時に人知れず傷ついたり苦しんだりしながらも、決して考えることも闘うことをやめずに真実を探す旅を続けてきた横山だからこそ、彼が放つ音楽は、見せる生き様は、過去から今まで何の矛盾もブレもなく繋がってひとつの強靭なメッセージとして私達に届く。

This world will never be one (Sad it may seem but it’s true)
But can they laugh at transcendent kindhearts ?
ーーこの世は決して一つにはならないのさ(悲しいと思うだろうけど本当さ)
ーーしかし全てを超えた優しさを笑えるか?

これはDVDと共に届く新曲“Stop The World”の歌詞。横山が長い旅を経て「We Are Fuckin’ One」という言葉に辿り着いた、その真意はここに表れているのではないかと思う。

by 有泉智子 (MUSICA編集長)