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No.017 兵庫慎司 (ロッキング・オン):作品レビュー 横山健 -疾風勁草編- ドキュメンタリーフィルム

作品レビュー:No.017 兵庫慎司 (ロッキング・オン)

「DIYの果てにこれだったら、これはクソだなと思ったもん」という言葉は、あまりにも重い。
重いが、この言葉がちゃんと入っているということは、この映画のリアルさをさらに確かなものにしていると思う。 by No.017 兵庫慎司 (ロッキング・オン)

もめてるほうがおもしろい。
というか、もめていないとおもしろくない。

ロック・バンドもしくはロック・アーティストを追ったドキュメンタリー映画に共通して言えることがあるとしたら、それだと思う。絶対にそうである、とまでは断言できないが、少なくとも、自分の経験に即して言うと、そういうことになる。

トラブったり、活動の危機に瀕したり、メンバー同士のいざこざがあったりする方がおもしろい。その究極が、海外の作品で言うなら、昔一瞬だけ味わった栄光を忘れられずに50歳を過ぎてもバイトしながら売れないバンドを続ける男たちを追った『アンヴィル! ~夢を諦めきれない男たち~』(2009年)だし、日本で言うなら、メンバー間のシリアスな確執もバンドが経済的に逼迫していくさまもすべて赤裸々に追っていく、ブラッドサースティ・ブッチャーズのドキュメンタリー映画『kocorono』だったりすると思う。逆に言うと、どんなに好きなバンドのドキュメンタリーであっても、もめてないものはおもしろくない。って、人がもめてるもめてないをおもしろいとかおもしろくないとか言っているのはまったくもっていい趣味ではないが、事実なんだからしょうがない。

というわけで。2011年9月18日横浜スタジアム、『AIR JAM 2011』のバックステージにて、あの日あの場にいた人間なら決してききたくないであろう横山 健のコメントから始まるこの映画は、その段階で「あ、これおもしろいわ」とわかる作品なのだった。生い立ちの話、複雑な家庭環境の話──ハイスタの話も熱いのはほんの一瞬で、それがあっという間に崩壊していくさまを語るパートの方がはるかに長い。そして、その果てに、精神を病み、バンドが止まり、ピザ・オブ・デス・レコーズの存在意義もあやふやになり、でもスタッフや他のバンドも抱えているのでそこでストップというわけにもいかず……。

で、やっとソロで本格始動、というところで、語りのパートがブツッと終わって、ツアー中に機材車が事故ってしまった時の画になるし。で、また語りが始まったと思ったら、ハイスタ時代からの付き合いだったPAさんが、ソロの最初のツアーが終わった段階で離れて行ってしまった、あの人は俺がやりたいことに納得できなかった、という話に……。

家庭環境の話も、ハイスタ復活のステージを終えた直後の複雑な思いも、彼はすでにロッキング・オン・ジャパンのインタヴューなどで話しているし、ここで初めて世にさらしたわけではない。ないが、本人の声で、本人の映像と共に伝えられると、重さが違う。きっと「こんな話するんじゃなかった」と思った箇所も、いっぱいあると思う。で、そうしようと思えばできたはずだ。この映画の製作はピザ・オブ・デス、つまり彼の会社なので。

じゃあなぜそうしなかったのか、理由はふたつ。ひとつめは、そんなふうに被写体に都合のいいように改竄されたドキュメンタリー映画、観たいか?という、プロデューサーとしての冷静な判断が、「こんな自分を人に見せたくない」という気持ちに勝ったこと。そしてもうひとつは、「これは俺が主人公の映画だけど、俺の作品ではない。監督の作品だ」という割り切りを持っていたことだと思う。言い換えれば、監督を信用しているし、クリエイターとして認めているということだ。

あとひとつ。「DIYの果てにこれだったら、これはクソだなと思ったもん」という言葉は、あまりにも重い。重いが、この言葉がちゃんと入っているということは、この映画のリアルさをさらに確かなものにしていると思う。

by 兵庫慎司 (ロッキング・オン)