このサイトはJavaScriptがオンになっていないと正常に表示されません

No.005 上野拓朗 (FLJ):作品レビュー 横山健 -疾風勁草編- ドキュメンタリーフィルム

作品レビュー:No.005 上野拓朗 (FLJ)

 by No.005 上野拓朗 (FLJ)

関係者の証言を交えつつ……とか、レコーディングやツアーの裏側に密着……とか、そういった資料性やリアリティで見せる映像ドキュメンタリーではない。この映画は、ほぼ全編にわたって横山の独白である。高井戸の小学校で人気者だった子供時代、家庭のことで苦労しつつもバンドに熱中した青年時代、ハイスタの結成から活動休止までに経験した“かけがえのない瞬間”の数々、そして今も続くKEN BANDへの想い。すべてのシーンが横山の言葉で綴られていく。

ハイスタ結成前のライヴハウスでのバイト時代、「若いうちは思いつく限りのことは何でもやってみることが大事」「だからライヴハウスでも知らない人にたくさん話しかけたりした」と語っているように、何か好きなものを見つけたらとことんやってみる……という姿勢が、昔も今も横山の基本的なスタンスであることがわかる。そうでなければ、彼が社長を務めるPIZZA OF DEATH RECORDSはここまで長く続いてなかったかもしれないし、「横山健の別に危なくないコラム」も続いていないだろう。

すべて思い通りにならないのが人生の面白いところでもあるように、ハイスタを経てのKEN BAND結成、ソロ名義でのアルバム発表と、30歳を過ぎてから彼のキャリアは急転していくことになる。横山いわく「ボロボロだった初めてのツアー」も経験し、メンバーだけでなくツアーに同行するスタッフたちとともに、まさしくゼロの状態から音楽の“中身”と“メッセージ”を作り上げてきた。『横山 健 -疾風勁草編-』は、そのタイトルが示すように横山のパーソナルな映画だが、つまりそれはKEN BANDのことなんじゃないかと思わせるくらい、とてつもない愛情と愛着を感じることができる。

だからこそ、東日本大震災後のAIR JAM開催やハイスタ復活に関して複雑な表情を見せるのも自然な反応だろう。AIR JAM 2011のハイスタのステージで「日本のために3人がこうして集まりました!」とアピールし、会場内にちょっとした笑いが起こると、すぐさまそれを制するように「笑わないでくれよ。これはマジメな話なんだ」と語る横山の声からは、ただ単にファンを喜ばせるためにやってるんじゃない!という強い意思がこもっていた。

KEN BANDとハイスタの間を行き来し、時には翻弄されたりしながらも、次第にバランスを取りながら着地点を見つけていく様子が、この作品には収められている。現実の中でもがき続けること、頭を使って考えること、そして何でもいいからアクションを起こすこと。あともうひとつ大事なのは、その結果をどう受け止めるのか?ということだ。

過去、横山に何度か取材してきて感じるのは、この“受け止め方”の懐の深さである。例えば、アニキとか先輩とか師匠とか、さらには社長とかボスとかっていうよりは、横山は僕の中で孤高の「親分」なのである。自分にいちばん厳しくて、他人には優しい。政治のことや社会のことにも堂々と物申すし、納得いかないことには大きな声をあげる。

DVDと一緒にパッケージ化された新曲の「Stop The World」を聴けばわかるように、世界と自分はどう対峙していくべきなのかっていうことを、パンクスの視点でわかりやすく伝えてくれる。それが、KEN BAND以降の横山のメッセージなのだ。

by 上野拓朗 (FLJ)