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No.012 坂野晴彦(Rolling Stone日本版):作品レビュー 横山健 -疾風勁草編- ドキュメンタリーフィルム

作品レビュー:No.012 坂野晴彦(Rolling Stone日本版)

常に正直でいることは、波紋を呼ぶこともある。ファンや仲間などの期待に応えられないこともある。
その代償がどれほどのことになるか、発言と同時に分かるだろう。
終始、にこやかな顔が映し出される中で、時折見せる厳しい表情にはそうした葛藤が浮かび上がる。 by No.012 坂野晴彦(Rolling Stone日本版)

DVDに付属される新曲のタイトルは「Stop The World」。歌詞カードでは〝世界を止めてくれ〟と訳されている。でも、僕は思う。いや、止められるのは健さんでしょ。ヒーローはあんたなんだから、と。

ドキュメンタリーの全体像についてはこの特設サイトで詳しく解説されているだろうから、ここでは僕個人が知る横山について書きたい。

横山と初めて会ったのは2012年の初頭。日産スタジアムでのAIR JAM 2011で復活を遂げたハイスタンダードのライヴDVDリリースのタイミング、その取材でだった。正直に言えば、それまでの彼の活動については90年代のパンク〜インディーズムーブメントの先駆けにしてその代表格、という認識しかなかった。

当時、友だちのスケーターやスノーボーダーらの車に同乗すると、ハイスタのCDがかかっていた。今思えば、彼らはライブハウスに足しげく通うような人たちではなかったから、その時代のユースカルチャーのど真ん中に、ハイスタはいたのだとわかる。いっぽうでテクノロジーを駆使したサンプリングによるポップミュージックが隆盛をむかえていたわけだから、彼らの荒々しいバンドサウンドは愚直にすら聴こえた。ただ、僕の友だちのような人種に〝俺の音楽〟だと思わせる、圧倒的な熱量があった。

ともかく初めて会って、インタビューに立ち会って、正直であることは予想どおり(そうであってほしい願望も込みで)だったが、その物腰の柔らかさと頭の回転の早さに驚いた。問われたことに対して、論理的に、話しにくいことも誠意をもって正直に回答する。アーティストはみんなそうだろ?と思うかもれしないけど、僕の体験上、あれだけ脱線しつつもインタビュイーの意図に沿って質問に答えられるアーティストはほとんどいない。それは彼が常に本心を語っているからなのだと思う。だから、この映画でも約3年にわたってカメラを向けられ続けたはずだが、発せられる言葉にブレがない。

常に正直でいることは、波紋を呼ぶこともある。ファンや仲間などの期待に応えられないこともある。時に多大な迷惑をかけてしまうこともある。頭のいい横山だ。その代償がどれほどのことになるか、発言と同時に分かるだろう。終始、にこやかな顔が映し出される中で、時折見せる厳しい表情にはそうした葛藤が浮かび上がる。

横山がヒーローである所以はここにある。正直であることやブレないこと、それらと表裏一体の心の葛藤が見え隠れすること。そこまでをさらけ出すことに、多くの人々が共感し、有り体の言葉になってしまうが、〝等身大のパンクヒーロー〟として憧れ、夢を託すのだと思う。

2011年11月19日、盟友BRAHMANのツアーファイナルで、ハイスタ3人がそれぞれ別のバンドで顔を揃えた。だが、Ken Bandのステージで誰もが期待したハイスタとしての出演を、横山は「ごっちゃにしたくないから」ときっぱり否定した。これに対してのオーディエンスからの反応と、バックステージでのTOSHI-LOWとのやり取りに、僕は鳥肌が立った。ぜひDVDで確認してみてほしい。

冒頭に戻ろう。乱暴だが、本作を観れば、横山が「ムチャクチャな世界を止められる男」だと思う僕に、共感してもらえると思う。それはこの男が、ひとりでは成し遂げられないことを多くの人々を巻き込んで巨大な力に変えて立ち向かっていく、ヒーローだから、だ。

この文章の中で意識的に避けてきたのだが、横山 健は本当にいい男だ。長々書いてきたが、つまるところ、このDVDはそのかっこよさが嫌みなく記録されたドキュメントなのである。

by 坂野晴彦(Rolling Stone日本版)