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《In the end/I must make it on my own/Made my choice so I go alone》――衝撃的で象徴的だった、横山健のソロアルバム一枚目『The Cost Of My Freedom』の一曲目、つまり一人で歩み始めた第一歩『I go alone』がオープニングを飾る映画『横山 健 –疾風勁草編-』。まさに、40代の男の赤裸々過ぎる物語がここにある。インタヴューで彼の口から溢れてくる、ずっとファンとして見続けてきて、ライターになってからは何度も話をしている私でさえ、知らなかった真実の数々。家族のことも、ハイスタのことも、病気のことも、KEN BANDの軌跡も……そこには、彼の生み出す音楽が説得力のあるパンクロックとなった理由や、紆余曲折を経た人生の年表が映し出されているだけではなく、誰もが生きるヒントがたくさんちりばめられている。特に、ハイスタで猛進していた頃について語っている時の「元々が何もなくてよかった」という言葉には、彼の強さやデカさが表われていて、やはり彼はパンクロックヒーローなのだと思わせられた。一方で、そういったシリアスな言葉に重ねられている映像が、ツアー中のオフショットであるKEN BANDのメンバーらとの雪合戦や、最早ステージでもお馴染み(!)となったストリップなど、子供のようにヤンチャな姿というギャップも。この表裏一体な構成は、映画だからこそなせる技であり、彼の実像が見事に表現されていると思う。
彼の短くない半生を描いているにも関わらず、AIR JAMやハイスタ復活なども含めて、東日本大震災に纏わる話に、多くの時間が割かれているところも、今作に込められたメッセージであろう。自分が発信する全てにおいて、その時に伝えたいこと、伝えるべきことを刻んでいく。それこそが、今の彼の表現のスタイルなのだから。DVDと共にパッケージされた、久々の新曲となるシングル『Stop The World』の歌詞からも、それははっきりとわかる――《Stop,Stop/頼むから誰か世界を止めてくれ/Stop,Stop/バカみたいな理想論だってわかっちゃいるけど》。
改めて思うのは、音楽は鳴らしている人が聴こえてくるほどに魅力的になるということ。彼の音楽を、酸素のように必然的に吸い込みながら大人になったキッズは、今作を見て、まるで青春の答え合わせをしている気分になるかもしれない。ああ、自分はこういう人の音楽を聴いていたから、こういう道を選択してきたんだろうなあ、と。私自身、今作のDVDを、生まれて一ヶ月の娘を抱っこしながら見ていたからか、思うところがたくさんあった。高校生の頃に彼が鳴らす音楽に出会ってから今まで、心が折れそうになった時に、スピーカーから聴こえてきた思想や生き様に救われたことが幾度あったか。自分の大きな夢でもあった我が子が、すやすや寝る顔を見ながら、彼女にも私のような出会いがあるようにと、願わずにはいられない。
今作は、頭から最後まで、爆音で横山健そのものが聴こえてくる。そして、見終わった後、残響の中で自分の人生を噛み締められる、唯一人あなたのためのパンクロック一大巨編だ。
by 高橋美穂